南日本新聞朝刊(2002年12月10日)


「先輩訪ね“人間的医療”探る」


▼アフリカで患者に向き合う日本人医師を歌ったさだまさしさんの「風に立つライオン」。宮崎医科大学の学生11人が、曲のモデルとなった柴田紘一郎・県立日南病院長(62)をはじめ、柴田さんやさださんとつながりを持つ医師らに取材して、曲と同名の本を出版した。医療やそれに携わるものとしてあるべき姿を手探りする若き医学生の前向きな姿勢や、現場で奮闘する医師の息遣いが伝わってくると評判だ。

▼「医師として大切なものは何なのか」。“先輩”を全国に訪ねてインタビューした。小学教諭をやめ41歳で医学を志した医師や、辺地での医療に取り組む医師たち。「いい医者である前にいい人間、魅力ある人間に」「常に謙虚であってほしい」といった助言が並ぶ。また、柴田さんは「臨床医は芸者。心身ともに悩んでいる患者さんに、芸の心をもって尽くすことが理想」と持論を語っている。

▼本を作るきっかけとなったのは昨年の学園祭。「風に立つライオン」のファンである学生らが、同大の元助教授である柴田さんを招いて話を聞く「ライオン企画」を立案。学園祭で柴田さんたちに事前に取材した内容も展示した。それを冊子にまとめたところ、出版社の目にとまったという。

▼企画した三苫悠さん(5年)は「将来どういう医師になるかという物差しをもらった」と話す。インタビュアーの一人、橋場弥生さん(2年)は「一人の人間として何を考えて、医師になったのか聞こうと努力した」。出版に奔走した寺沢大祐さん(4年)は「いろんな人の声に支えられた企画。命に向かい合っている現場にいる人たちの声が伝われば」と語った。

▼四六判。214ページ、1500円(税別)。不知火書房=092(781)6962。