LiSA (Life Support and Anesthesia)(2003. Vol.10 No.1)


▼「風に立つライオン」は、さだまさしが彼の友人である医師の体験に想を得て作り上げた歌曲のタイトルである。キリマンジャロを仰ぐケニアの小さな村で働く日本人医師に別れた恋人から突然の手紙が届き、それに対する返事の形で構成されている。愛する人への思いやり、現在の自分の姿、美しい自然とそこに住む人々への慈しみ、そして母国、日本の現在を憂うる感情が、そこでは語られる。そして、風に向かって立つライオンとは、「よどみない生命を生きたい」と願う男の精神の象徴なのである。さだまさしの歌曲としてベストとは言えないかもしれないが、胸の内にいささかの志をもつ人間にとっては、心に滲みる詞であり曲である。

▼本書の中心は、学園祭の企画として、宮崎医科大学の学生たちがそのライオンに擬せられたモデルの医師を発端とし、そこにつながる多くの魅力的な医師たち、つまり学生たちにとって先達でありロールモデルである人々にインタビューしたものである。またどうじにそれは、彼らにとって、否応なく、なぜ自分は医師を目指すのか、という根源的な問題に直面することであり、8人の学生が、その問いに答えようと努力している。

緒言によれば、企画終了後に「冊子を作ろう」という声が生まれ、それが寄稿文や来場者の感想文などを盛り込んだ「記念誌」となり、さらにそこから湧き起こった多くの反響の結果として、この度の本格的な出版に至ったのだそうだ。そこまでに発展するためには、単に医師や医学生だけが面白がっていてはとうてい無理なのであり、やはり医学関係以外の多くの人々の関心、共感を得なければなしえまい。

▼書評子に本書の存在を教えて下さったのは、堂園晴彦先生である。堂園先生は郷里、鹿児島で末期ケアを中心とした堂園メディカルハウスを運営する一方で、良医を育てるという目標を掲げて特定非営利活動法人(NPO)、その名も「風に立つライオン」を主宰しておられる人である。具体的にはマザー・テレサの施設に日本の医学生を派遣するなどの活動を行っているが、法人名の由来はもちろん、この歌である。

▼なお、さだまさしには、この「風に立つライオン」の続編とでもいうべき、「八ヶ岳に立つ野ウサギ」という一編もある。これは、さだから「風に立つライオン」を聞かされた医師が、それに答えて「自分はとてもライオンにはなれないが、せめて心は健康であるように、誇り忘れないように、自ら野ウサギを名乗る」という内容である。


(福家伸夫:帝京大学医学部付属市原病院集中治療センター)